被相続人の生前に、相続人の一部に、結婚資金や学資等の贈与をしていた場合、相続人間に不公平が生じる場合があります。このような場合、贈与を受けた者を「特別受益者」とし、相続分から差し引くことで、相続人間の不公平を是正することを求められます。
生前贈与は、結婚持参金、新居、道具類、高額の結納や新婚旅行費用などの婚姻のための贈与、高等教育の学費、家などの、生計の資本としての費用が特別受益とされています。
特別受益者がいる場合は、特別受益分を、被相続人が死亡時に有していた財産価値に加えて相続財産とみなします。これに法定相続分を乗じて、特別受益分を差し引いた金額を、特別受益者の相続分とします。
したがって、生前に兄が土地の贈与を受けていた場合には、特別受益として遺産分割に影響します。
通常、被相続人の生前に、配偶者に対して財産を生前贈与したり、遺言で遺贈をしていた場合には、遺産分割において、配偶者は既に相続財産の一部の先渡しを受けたものとみなされます。
しかし、婚姻して20年以上たって、夫から現在居住する不動産の生前贈与を受けた場合や、遺言での贈与(遺贈)を受けた場合には、被相続人(夫)は、配偶者(妻)のその後の生活を守る目的で贈与したと考えられ、平成31年7月1日施行の相続法により、①婚姻期間が20年以上の夫婦で、②居住用の建物またはその敷地の遺贈や贈与があった場合、「持戻し」を免除する意思表示があったものと推定することとして、妻が夫から生前贈与を受けた居住用不動産は、当然には相続の対象にならないことになりました。
被相続人が存命中に、その財産の維持に貢献した相続人に与えられる利益を「寄与分」といいます。もっとも、通常の家事労働や、家族としての看病は特別の貢献とは評価されず、寄与分にはなりません。
寄与分は、相続財産から除外してから遺産分割し、寄与分のある相続人が、遺産分割による相続分に寄与分を加えたものを相続できます。
寄与分の程度や価値は、相続人全員が協議して決めますが、まとまらない場合は、家庭裁判所の調停で協議します。
寄与分は、被相続人の財産の維持または増加に特別の寄与をした相続人のための制度であり、相続人以外には寄与分は認められません。
しかし平成31年7月1日施行の相続法では、相続人以外に特別の寄与をした被相続人の親族も含めて、寄与に応じた額の金銭(特別寄与料)の支払請求が認められました。
特別寄与料の請求は、①被相続人の親族であること、②無償で労務提供による特別の寄与行為をしたこと、③これにより被相続人の財産が維持または増加したことが要件となります。
親族とは、6親等内の血族、配偶者、三親等内の姻族をいい、義理の父も三親等内の姻族として親族にあたり、特別寄与料の請求が認められます。
特別寄与料の請求は、新たに相続法で認められた制度です。
相続人との間で協議をし、これが調わないときや、協議できないときは、家庭裁判所に協議に変わる処分を請求します。特別寄与料支払請求権を行使するのが、相続人以外の者であれば、遺産分割調停での手続とはなりません。
また、特別寄与料の請求は、相続開始を知って6ヶ月、相続開始から1年を経過するまでの短期間に行使しなければなりません。
家庭裁判所が特別寄与料を決める場合、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して額を定めます。一切の事情とは、相続債務額や、遺留分、特別寄与者自身が受けた利益などです。
療養や看護であれば、付添人の日当額療養看護の日数 × 裁量割合で算定されるのが一般で、裁量割合は0.5〜0.7とされることが多いです。
また、特別寄与料は法定相続分に応じて負担します。