民法は満15歳以上の者が遺言をすることができるとしています。また、成年被後見人でも、医師2名以上が立会い、遺言時の最低限の判断能力があることを確認できれば、遺言が可能です。
2人以上の者が一つの証書で遺言を作成すると、無効になります。自由な遺言が出来ないことや、撤回の自由を妨げる等の理由です。
「遺贈する」と記載すると、相続人全員(あるいは遺言執行者)が、受遺者と協力して登記の申請をしなければなりません。他方「相続させる」と記載すると、相続人が単独で登記の申請をすることができます。
なお、相続人に対する遺贈登記は相続登記と同じ税率となっています(不動産の固定資産税評価額の1000分の4)。
遺言者が、遺言書の全文・日付及び氏名を自書して、これに押印します。
作成日は特定しなければならず、「○月吉日」では遺言が無効になります。押印は、手書きの花押は無効とされます。また認め印でも構いませんが、後日遺言の効力を巡り争いにならないよう、実印で押印するのが無難です。
遺言書は封筒に入れて封印して下さい。遺言者が亡くなった後には、家庭裁判所に申し出て「検認」の手続きを受けることになります。
遺言には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言があります。
自筆証書遺言は、原則として全文、日付、氏名を自書し、押印します。
公正証書遺言は、遺言者が遺言の趣旨を公証人に口頭で伝え、公証人がそれを筆記し、その筆記したものを公証人が遺言者と証人に読み聞かせ、または閲覧させて、その筆記が正確であれば、遺言者と証人が署名、押印します。
秘密証書遺言は、パソコンで作成したものや代書で作成したものに、遺言者の署名(自署)と押印をして封筒に入れ、遺言書に押印した印と同じ印で封印し、公証人と証人の前に封書を提出します。公証人は遺言書を提出した日付および遺言者の申述(遺言書が自分のものであること)を封紙に記載して、遺言者、証人と共にこれに署名します。
したがって思うように字が書けない場合でも、署名さえ書ければ、公正証書遺言か秘密証書遺言なら、作成することができます。また公正証書遺言の場合は、遺言者が署名できないときでも、公証人がその事由を書いて署名に代えることもできます。
遺言は、満15歳以上であれば誰でもできます(民961)。ただし遺言者は、遺言をする時に意思能力を有していなければならず(民963)、遺言の内容を理解して、結果がどうなるかわかることが必要です。
成年被後見人は、医師二人以上の立ち会いのもと、事理を弁識する能力を一時回復した時には、遺言をすることが認めてられています(民973)。立ち会った医師は、遺言者が遺言をする時に精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状態になかった旨を遺言書に付記して、これに署名し、印を押します(民973)。
メリットは下記の手軽さです。
① いつでも書ける
② 書き換えや変更ができる
③ 費用がかからない
デメリットは、下記の手軽さの裏返しです。
① 民法で定められたとおりに作成しないと、無効になる
② 遺言書が盗難の被害にあったり、紛失のおそれがある
③ 遺言書の保管者または遺言書を発見した相続人は、被相続人の死亡を知った後、家庭裁判所に遺言書を提出して、検認を請求しなければならない
自筆証書遺言では、遺言書の全文、日付、氏名を遺言者が自ら手書きで書く必要があり、パソコンで入力した遺言は、効力を有しません。
ただし、相続させる財産を表形式で記載した遺産目録、財産目録等の明細書は、不動産登記簿に記載された事項や、金融機関の口座などを正確に記載する必要があるため、パソコンで作成することが認められています。
なお、パソコンで作成した目録は、手書きの遺言書本体とは別の用紙に印刷し、遺言書の記述と一体となるように作成してください。具体的には、遺言者がすべてのページに署名押印し、用紙の両面に印刷する場合は、両面に署名押印が必要となります。
ホチキス止めや契印は必ずしも要件とはされていませんが、相続人が確認しやすいように、ホチキスや契印をしておくのが適切です。
パソコンで目録を作成した場合にも、その他の部分が自書によらない場合には、遺言は無効となるので、気をつけてください。
基本的に全て手で書くこと、署名・押印を忘れないこと、日付を具体的に書くこと、書く内容や分け方、指定する相続人名を相続人や法務局、金融機関等にもわかるように明確に記載することが重要です。
自筆証書遺言の要件を満たしているかどうかを確認してください。
要件を満たしている場合、本人が遺言を作成した際の状況を確認するため、病院からカルテや看護記録を取り寄せて、作成日の遺言作成者の身体状況、意思表示が可能であったかを確認してください。看護記録には本人の具体的な言動等も記載されていることがあります。
また、本人が作成したか否かを判断する要素として、遺言の内容が以前にした遺言の内容や発言、メモと整合しているか、筆跡が本人のものかについても確認してください。
一般的に、以下のものを準備して公証役場に提出します。
① 本人の実印と印鑑証明書(発行後3ヶ月以内)
② 本人の身分確認証(免許証、パスポート)
③ 戸籍謄本(遺言者と相続人の続柄がわかるもの)
④ 財産をもらう人の住民票(相続人以外の方に遺贈する場合)
⑤ 土地・建物の登記簿謄本・固定資産評価額証明書・都市計画税納税通知書中の課税明細書
⑥ 証人予定者2人の名前、住所、生年月日及び職業をメモしたもの(身分証のコピー)
メリットは、厳格な手続を要することによる下記の確実性です。
① 公証人が関与するので、形式の整っていない遺言をするリスクが無い
② 検認する手続が不要になる
③ 公正証書遺言の原本が公証役場に保管されるため、偽造を防止する事ができる
④ 病気や身体の衰えなどから筆記が難しい方でも、遺言を遺すことが可能になる
デメリットは、一定の手続が必要なことによる下記の点です。
① 作成の手続きが煩雑になる
② 費用がかかる
③ 内容を秘密にしておくことができない
④ 2人の証人を用意しなければならない
公証役場で確認することができます。
平成元年以降に作成された公正証書遺言であれば、公正証書遺言を作成した公証役場名、公証人名、遺言者名、作成年月日等がコンピューターにより管理されているので、相続人などの利害関係人は、照会を依頼することが可能です。
その際、被相続人が死亡したとの記載があり、かつ、亡くなった方との利害関係を証明できる戸籍謄本、利害関係人の身分証明証を公証役場に持参してください。
紛失の可能性や、死亡後に問題が生じないよう、貸金庫に保管する場合が多いです。貸金庫を利用しない場合には、相続と利害関係を持たない公平な信頼できる第三者の人に事情を話して、遺言書の保管を依頼するのが無難です。
原本を保管し、画像データ化して保管してくれます(法務局における遺言書の保管等に関する法律6条1項、7条1項)。法務局での保管を依頼する場合は、形式審査や保管のため、用紙の片面だけに記載し、ホチキス留めなどをしないようにします。
また封筒に入れる場合も開封のままで、封印しないことが原則です。
公的機関が保管することで、紛失・隠匿を回避するだけでなく遺言書の存在の把握が容易になります。法務局に保管されている遺言書については、遺言書の検認(民法10044条1項)も不要となります。
公正証書遺言の作成と異なり、法務局の人(遺言書保管官)が出張して預かりに来る制度はありません。
法務局(遺言書保管所)では、遺言の内容や要件についての審査・確認をしてくれません。遺言が無効とならないよう、弁護士など専門家に相談した上で自筆証書遺言を作成するのが無難です。
自筆証書遺言を発見した場合、遅滞なく家庭裁判所に遺言の検認の申立てをしてください。検認手続は、他の相続人に遺言の存在と内容を知らせるとともに、遺言の偽造・変造を防ぐことが目的なので、検認手続を経たとしても、自筆証書遺言の記載要件を満たしているとか、内容が有効であると判断されるものではありません。
なお検認の申立てをしなかったり、故意に遺言書を開封すると、5万円以下の過料に処せられます。
自筆証書遺言の保管者や遺言書を発見した相続人は、相続開始後遅滞なく家庭裁判所に検認の申立をする必要があります(民法1004条1項)。
遺言書の検認は、遺言の方式に関する一切の事実(遺言書の形状、加除訂正の状態、日付、署名など遺言書の内容)を調査して遺言書の状態を確定し、その現状を明確にするもので、遺言書を保全し、変造や隠匿を防ぐために行う手続です。検認を申立てる裁判所は、遺言者の最後の住所地の家庭裁判所です。
家庭裁判所は相続人等の立会いを求め、検認期日を指定して申立人及び相続人に通知します。検認期日には、家庭裁判所が相続人等の立会いのもとで開封し、遺言の方式に関する一切を調査して、当該遺言書を複写し遺言書検認調書を作成します。
検認終了後、申請により遺言検認済証明を受けて、提出者が遺言の返還を受けます。
なお、検認を受けたからといって、当該遺言が有効な遺言であるということが確定するわけではありません。また検認を受けなかったり、遺言書を家庭裁判所外で開封しても、それが理由で遺言が無効になることはありません。
遺言書の記載に従い預金や不動産などの遺産の名義変更をする場合には、家庭裁判所が発行する検認済証明書が必要となります。
遺言執行者が必要な場合には、相続人・利害関係人等は家庭裁判所に対して、遺言執行者の選任を申立てることができます。
遺言を書いた後でも、「遺言者は、いつでも、遺言の方式にしたがって、その遺言の全部又は一部を撤回することができ」ます(民1022)。公正証書遺言を自筆証書遺言で撤回する(=効果を消滅させる)こともでき、遺言の方式はすべて利用できます。遺言書が遺言者の死後に遺っている場合には、その遺言が最終の意思となりますが、遺言が複数存在した場合、最後に書いたものだけが遺言者の意思であるとは限りません。遺言はその内容が抵触していなければ、日付に関係なく、存在するすべての遺言が遺言者の意思になります。
そこで遺言を撤回する場合には、下記の方法をとる事になります。
(1)自筆証書遺言の場合
新たに遺言を書いて、前に書いた遺言を確実に破棄する。
前の遺言を撤回するとの記載をした遺言書を書く。
前の遺言の一部だけを撤回する場合には、内容の新しい遺言書を書いて、一部撤回であることを記載する。
(2)公正証書遺言の場合
公正証書遺言を撤回するには、新たな遺言を作成して、前の遺言を撤回する必要があります。この場合新たな遺言は自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言のいずれでも構いませんが、発見されるためには、公正証書遺言が適切です。
遺言は遺言者の最終意思を尊重するため、複数の遺言があり、記載内容に違いがある場合には、古い遺言は撤回され、日付の新しい遺言が優先されます。