会社の義務と対応

新型コロナウイルス感染症と労働契約

感染者の判明と企業の対応

新型コロナに従業員が感染した場合に、会社はどのような措置をとればよいでしょうか。

概ね下記のものが挙げられます。
・消毒終了までの企業施設の利用禁止
・保健所に依頼しての濃厚接触者の特定と、濃厚接触者への抗原検査、PCR検査、その後の経過観察のための一定期間の自主隔離
・可能な範囲での従業員・取引先への報告と注意喚起

従業員の体調不良と企業の対応

咳を繰り返す従業員に対して、どのような対応が必要でしょうか。

咳や発熱症状がある従業員には、症状悪化の防止のため、会社を休み、病院や保健所に行くよう勧めてください。なお、従業員と会社のいずれの都合による休業かにより、給与の支払いに違いが生じますので、症状を確認しながら、慎重に手続を進めてください。
また他の従業員には、感染拡大防止のため、咳や発熱症状があるときの事前の報告や体温測定、PCR等の検査の受診を呼びかけ下さい。

発熱と休暇取得

従業員は、発熱や咳を理由に、年次有給休暇を申請できますか。

従業員は、年次有給休暇について、その理由を問わず取得することができます。なお、勤務先が、就業規則等で病気有給休暇制度を規定している場合は、これを取得して休業することも可能です。
ただし、検査によりコロナの陽性が判明する可能性があること、従業員に濃厚接触者がいる可能性があること等から、発熱や咳が理由であれば、医療機関への受診を勧め、検査結果の報告を求め、濃厚接触の可能性がある従業員にも検査の受診を促して下さい。

事業主からの年次有給休暇取得の要請

発熱や咳の症状がある従業員に、年次有給休暇を取得して休むよう要請できますか。

有給の取得は、本人申請・会社承認のため、使用者から有給の取得を強要することはできません。
ただし新型コロナについては、会社から従業員全員に対して、事前に年次有給休暇や病気有給休暇の取得ができることを説明して、活用を促すことは可能です。

特別休暇制度の新設

新型コロナに関連して、会社が有給の特別休暇制度を設けることは可能でしょうか。

年次有給休暇の他に、労使の話し合いにより、事業上での有給の休暇制度を設けることは可能です。新設した場合には、要件や内容を具体的に定めた規程を書面化し、従業員に周知してください。
なお年次有給休暇とは別に有給の休暇を付与した場合には、助成金制度の適用があります。

職場の安全配慮義務

職場での安全配慮義務と使用者の責任

職場で従業員が新型コロナに感染した場合に、使用者は責任を問われるでしょうか。

使用者は、雇用契約に付随して、職場における労働者の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務(安全配慮義務)を負っています。
新型コロナが落ち着いている状況であったとしても、収束が見通せない状況下では、下記のような感染リスクと感染経路の情報収集を適切に履行している必要があります。
① 発症の可能性がある従業員に関する社内の報告・連絡網の確立
② 従業員の体調に関する適時の状況把握(体調・体温報告等)
③ 濃厚接触を避ける社内の措置
時差出勤、時短出勤、テレワーク、会議の短時間化、3密制限、十分な換気
④ 石鹸による手洗いとアルコール消毒
⑤ マスク着用
⑥ 体調不良の従業員に対する休暇取得等の推奨
⑦ 出張の回避
⑧ 職場外での行動の抑制についての注意喚起
職場で従業員が新型コロナに感染した場合、以上の義務を尽くしていない使用者は、安全配慮義務違反として損害賠償責任を負担する可能性があります。

安全配慮義務違反と損害賠償責任

どのような場合に、使用者は、新型コロナに対する安全配慮義務違反を問われるでしょうか。

職場でのコロナ感染により会社が安全配慮義務違反の責任を問われる場合として、下記の場合が考えられます。
① 接客対応担当者に対して、飛沫防止の対面ガード等を設置しなかった場合
② 蔓延状況が深刻化している地域での自主的休業、在宅勤務の導入、時差出勤の導入、出勤者数の圧縮措置をとらなかった場合
③ 企業内に感染者が判明した場合、速やかな除菌消毒措置や濃厚接触者に2週間程度の自宅待機措置をとらなかった場合、濃厚接触者以外の職場接触者に抗原検査、PCR検査などを勧めなかった場合
④ 咳、発熱症状、喉の痛みを訴える社員への出勤免除、テレワーク指示、外出自粛の勧奨をしなかった場合
なお、安全配慮義務違反を根拠として、慰謝料、休業補償、逸失利益の補償が求められる可能性があります。

感染への対応措置

従業員の風邪症状とコロナ対策

くしゃみや鼻水、発熱、喉の痛みなどの風邪症状を呈する従業員への対応をどうしたらいいでしょうか。

コロナに感染すると一定の潜伏期間を経て発症するため、発症初期には普通の風邪との見分けが難しく、コロナに感染している可能性を考えた労務管理をする必要があります。特にウィルスの種類により症状が異なるため、即断することは危険です。
具体的には、下記の方法が考えられます。
① 発熱、咳、喉の痛みなどの症状がみられる労働者への、医療機関での診断の勧め
② 上記の症状がみられる労働者への、出勤免除、テレワークの指示、その間の外出自粛の勧奨
③ 欠勤中の賃金について労使間で話し合い、労働者が安心して休暇を取得できる体制(規程)の整備
④ 公共交通機関の利用を回避ことの注意喚起

感染した場合の対応

社内に感染者や感染した可能性のある従業員が出た場合の措置を教えて下さい。

保健所からの連絡によって従業員が新型コロナに感染していることが判明することがあります。この場合は、調査に協力して下さい。
保健所から連絡が入る前に、本人からの連絡等で判明することもあり、この場合、会社は速かに保健所に連絡して下さい。
感染が判明すると、都道府県知事は、感染者を強制入院させることができ(感染症法19条)、会社は就業制限の指示を受けることがあります(同18条)。
この場合には、「使用者の責に帰すべき事由による休業」(労基法26条)にあたらず、原則として賃金を払う必要はありません。
他方、保健所から「自宅待機にした方が良い」という程度の指導を受けた場合には、会社の判断で自宅待機させるかを判断することになります。
新型コロナで就業不能ともいえない場合には、テレワークをさせて給与を払うか、休業補償(6割)を支払うのが適切です。
さらに、濃厚接触が疑われる従業員も、休業補償を行って自宅待機を指示した方が良い場合もあります。

会社のルール作り

職場でコロナの陽性者や濃厚接触者が発生した場合に備え、どのようなルールを定めればいいでしょうか。

以下の項目を盛り込んだ対応ルールを作成して、従業員に周知してください。また労働安全衛生法に基づく労働者死傷病報告の提出も必要です。
① 報告先の部署、担当者
② 保健所と連携する部署、担当者、陽性者と接触した労働者の対応
③ 職場の消毒についての対応方法
④ 解雇などの不利益取り扱いや差別をしないこと
⑤ 休業や賃金の取り扱い方法

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