退職・解雇・雇い止め

退職

辞職・退職の制限

従業員が会社に辞職(退職)を申し出ました。会社は、退職を制限したり、損害賠償を求められますか。

使用者からの解雇と異なり、労働者からの労働契約の解約である辞職・退職申出は、原則として自由です。日本国憲法18条が奴隷的拘束を禁じ、22条で職業選択の自由も認められているからです。
ただし、期間の定めのない労働契約の場合であれば、原則として退職2週間前に辞職の予告をする必要があり(民法627条)、予告から2週間経過後に契約が終了します。
月給制の場合は、月の前半に辞職の意思表示をしなければならず、月の後半に意思表示をした場合は、翌々月に契約の終了の効果が生じます(民法627条2項)。
年俸制の場合は、3か月以上前に辞職の意思を表示する必要がありますが(民法627条3項)、月給制の場合に準じるべきともされています。
このような民法の規定に従った辞職の手続きを踏むならば損害賠償が認められることはありません。
有期労働契約の場合には、契約期間の途中に辞職するためには、やむを得ない事由が必要とされます(民法628条)。「やむを得ない事由」としては、会社が賃金を支払わない場合、職場環境が劣悪で危険な場合、違法な行為を強要される場合などがあります。なお、有期の労働契約でも、契約の初日から1年経過後は、労働者は「やむを得ない事由」がなくても辞職できます(労働基準法137条)。ただし、厚労大臣が定める基準に該当する専門的知識を有する労働者及び60歳以上の労働者には適用されません。

辞職と退職願

辞職と退職願は違いますか。

「辞職」とは、労働者の側から、一方的な意思により、労働契約を終了(解約)させることです。辞職の場合は、会社が承諾するまでもなく、労働者の意思表示だけで直ちに効力が生じるため、原則として撤回できません。
「退職願」は、労働契約の合意解約の申込みなので、労働者の退職の意思表示(退職願)を使用者が承諾してから労働契約関係が解消されます。なので、退職願は撤回の余地があります。
判例は、
しかし、退職願も会社側が受理すれば合意解約が成立し、原則として撤回が許されません(大隈鉄工所事件 最高裁昭和62年9月18日)。

退職時の有給取得と買い取り

退職と有給休暇の取得

退職することになりましたが、まだ取得していない有給休暇を取得できますか。

年次有給休暇の取得は、法的に認められています。有給を取得する時季も自由に請求できると定められ、使用者は、有給の取得自体を拒めず、既に退職が決まっている労働者が、退職前に有給を消化することに問題はありません。もっとも退職する従業員は、円滑な退職のため業務の引き継ぎ日数を考慮し、消化する有給の日数と取得日を計算に入れる必要があります。
なお使用者は、請求された時季に有給休暇を与えると、事業の正常な運営を妨げる場合は、有給を他の時季に変更できますが(時季変更権)、退職日を超えて時季を変更することはできず、退職前に有給取得を請求した労働者に、時季変更権を行使することは事実上できません。

退職従業員の有給休暇の買い取り請求

退職する従業員から年次有給休暇の買い取りを求められた場合、事業主は応じる義務がありますか。

年次有給休暇の買い取りは、有給休暇(労働基準法39条)の付与と引き替えに事業主から請求することは認められません。
しかし、法定の付与日数を上回る分の「法定外年休」や「会社休暇」については、事業主から買い取りが認められます。
また、有給休暇の付与日から2年を経過し、時効消滅した有給休暇(労働基準法115条)であれば、会社が買い取りを請求することに問題はありません。
さらに、退職日が確定した際に、未消化の分の有給の休暇の買い取りも違法ではありません。
これに対して、従業員から会社に対して、未消化分の有給休暇を買い取るよう請求する権利はなく、また、会社がこれに応じる義務はありません。有給休暇の買い取りは、あくまで、会社の裁量の範囲内で行われるものだからです。
但し、退職手続を円滑に行う必要があるのであれば、退職従業員との協議により買取りに応じることは可能です。

有期雇用契約の更新拒絶

雇い止め・更新拒絶の制限

有期雇用契約の期間満了前に、会社から契約を更新しないと言われましたが、辞めなければならないのでしょうか。

使用者は、有期雇用契約を結ぶ際に、更新の有無や更新する場合の基準を労働者に明示しなければなりません。有期雇用契約で期間が満了する場合、原則として期間の満了とともに契約も終了します。ただし、労使の合意で契約が更新されれば、引き続き契約が存続することとなります。
これまで何度も有期雇用契約の更新を繰り返しており、業務内容も正社員と同様である場合は、有期雇用契約であっても「期間の定めのない労働契約」として実質的に正社員同じだと判断され、「解雇」と同様、更新拒絶が制限されます。
また契約時の説明(原則として契約更新する予定だ、他の従業員も契約更新を繰り返している等)や普段の言動から、合理的に見て労働者側が更新を期待する場合も、更新拒絶が制限され、更新拒絶が無効となる可能性があります。

解雇手続き

解雇理由証明書

会社に対して、解雇理由証明書の発行を求められますか。

解雇理由が不明あるいは不明確な場合、使用者に「解雇理由証明書」の提出を求められます(労基法22条)。行政通達では、解雇の理由は、具体的に示す必要があり、就業規則の一定の条項に該当することを理由として解雇した場合には、就業規則の当該条項の内容及び当該条項に該当するに至った事実関係を証明書に記入しなければならないものとされています。

解雇理由証明書の目的

使用者に解雇理由証明書を提出させる意味は何ですか。

解雇の理由に応じ、対応を検討する必要があるためです。使用者が理由の説明を拒否している場合、あるいは不合理な理由を説明している場合は、後日訴訟になった場合の資料として、そのこと自体を明らかにしておく必要があります。

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