簡単に言うと性的嫌がらせ、追い詰めのことです。職場での性的な言動に対する労働者の拒否や抵抗により、職場環境が悪化したり、労働条件が不利益に扱われることをいいます。
セクハラ行為をする側の意図や意識よりも、言動の内容、言われる側、される側の思い、萎縮具合を重視して判断します。
セクハラに関しては、男女雇用機会均等法で、事業主に対してセクハラ防止措置が義務付けられています。
事業主は、職場での性的言動に対する労働者の対応により、労働条件の不利益を受け、又は就業環境が害されないよう、労働者からの相談に応じて適切に対応するための必要な体制の整備・雇用管理上必要な措置を講じなければなりません(男女雇用機会均等法11条)。したがって、会社の規程がなくても、事業主はセクハラへの対応措置が必要です。
厚生労働大臣の指針により 下記の項目が定められ、事業主に実施が義務づけられています。
① 事業主の厳正対処の方針の明確化及び労働者への周知・啓発
② 相談・苦情への相談窓口の設置等、必要な体制の整備
③ セクハラへの迅速かつ適切な確認と対処措置、再発防止
④ 相談者・行為者のプライバシーを保護、不利益扱いの禁止
忘年会など実質上職務の延長と評価される場合も、セクハラの起きる「職場」とされます。
セクハラが認定されると、セクハラを行った本人だけでなく、使用者も、職場環境配慮義務や加害者に対する監督を怠ったとして、債務不履行責任(民法415条)や使用者責任(民法715条)に基づく損害賠償責任を負います。
会社は、忘年会の席でとられた言動について、双方から言い分を十分に聞き、同席した他の従業員からの事情を聞くなどして事実関係を十分に調査し、適切な対応をすることが求められます。
会社には、セクハラ防止義務があり、セクハラ防止の方針を明確化して、周知・啓発したり、相談窓口を設け、セクハラが起きた場合に迅速・適切な対応をする義務があります。
相談窓口へは、どのように対応してもらっているかの進捗状況を随時確認し、対応をしてもらえなければ、裁判所に提訴して、会社や問題の上司に対して損害賠償請求をすることができます。また都道府県の男女雇用機会均等室に申告して、行政指導してもらうことも可能です。
このようなことのないよう、会社は、速やかで適切な対応が必要です。
セクハラが原因で精神障害を発病した場合は、労災保険の対象になります。
厚生労働省は、精神障害が業務上として労災認定できるかを判断するための「心理的負荷による精神障害の認定基準」を定め、発病前の概ね6か月間に起きた業務上の出来事につき、強い心理的負荷が認められる場合に、要件にあたるとしています。
パワハラ防止措置関連法では、以下3要件を満たすものとしています。
① 職場での優越的な関係を背景とした
② 業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により
③ 就業環境を害すること(身体的若しくは精神的な苦痛を与えること)
優越的な関係とは、パワハラを受ける労働者が、行為者に対して抵抗又は拒絶することができない蓋然性が高い関係を指し、職務上の地位に限らず、人間関係や専門知識、経験などの様々な優位性が含まれます。
成立します。
複数の部下から一人の上司への嫌がらせや、能力のある部下から上司への嫌がらせは、職場での優越的な関係を背景とした嫌がらせとして、パワハラに該当することがあります。
パワハラ防止対策関連法(改正労働施策総合推進法)は、それまで労働契約法5条や民法などの一般法で規制されてきたパワハラ行為について、事業主にパワハラを防止する措置を義務づけたものです。
パワハラ防止対策関連法により、事業主にパワハラ防止のための管理上の措置が義務付けられ、適切な措置を講じていない場合には、是正指導の対象となりました。パワハラ防止対策関連法は、大企業では令和2年6月、中小企業では令和4年4月から施行されています。
パワハラ防止対策関連法で求められている措置は、下記の通りです。
① 事業主によるパワハラ防止の社内方針の明確化と周知・啓発
② 苦情に対する相談体制の整備
③ 被害を受けた労働者へのケアや再発防止等
パワハラが常態化して改善が見られない場合は、会社名が公表されます。
パワハラとは、職権などのパワーを背景にして、本来の業務の範疇を超えて、継続的に人格と尊厳を侵害する言動を行い、就業者の働く関係を悪化させる、あるいは雇用不安を与える行為です。
上司の行為がパワハラに該当し、部下に精神的・肉体的な損害が発生した場合は、パワハラ防止対策関連法ではなく、民法で損害賠償を請求することとなります。
この場合、上司だけでなく、使用者である会社も、債務不履行責任(民法415条)や使用者責任(民法715条)に基づく損害賠償責任を負います。
マタニティー・ハラスメント(マタハラ)とは、妊娠している、もしくは出産後の女性社員への嫌がらせです。
男女雇用機会均等法では、婚姻や妊娠、出産を理由とした解雇、労働契約における変更を強要することが禁じられていますが、妊娠・出産を理由に退職を促すなど、精神的嫌がらせも問題になっています。
マタハラは、男女雇用機会均等法で、事業者による妊娠・出産を理由とする不利益取扱いの禁止(9条3項)と、事業者によるマタハラ等の防止措置の義務付け(11条の2)が規定されています。
また育児・介護休業法で、育児休業・介護休業等を理由とする不利益取扱いの禁止(10条、16条)と事業者によるマタハラ等の防止措置の義務付け(25条)が図られています。
これらに加えて、女性活躍推進法により、マタハラ等により生じた問題の国、事業主及び労働者の責務の明確化(男女雇用機会均等法11の4条)や、労働者がマタハラ等の相談をしたことを理由に不利益取扱いすることの禁止(男女雇用機会均等法11の3条2項)も図られています。
内定とは、卒業できないこと等の事由がある場合に解約できる権利を留保している労働契約(解約権留保付労働契約)です。
内定を与えられた採用内定者の地位は、労働者の試用期間中の地位と同様であり、一方的に取り消すことができません。
妊娠を理由に内定取り消しすることは、解雇権の濫用(労働契約法16条)に当たるとともに、男女雇用機会均等法9条が禁止する不利益な取扱いとなり、無効です。
男女雇用機会均等法9条により、女性労働者が婚姻・妊娠・出産をしたことによる不利益な取扱いを禁止しており、妊娠を解雇の理由とすることはできません。
身体に負担の少ない業務への配置転換であったとしても、妊娠した女性の意思や同意なく配置転換を行うのであれば、不利益な取扱いにあたり、マタハラと認定される可能性があります。
妊娠や出産を理由に降格・解雇・雇い止めなどの不利益な取扱いをすることはマタハラとして禁止されています。契約社員であっても同様で、妊娠を理由に雇い止めをすることは、マタハラによる不利益な取り扱いとなり、認められません。
賞与や給与は、就業規則、賃金規程、労働契約で定めており、支給額の計算方法が定まっている場合は、合理的理由なく減額することはできません。
妊娠により休暇を取得しても、就労した事実がある以上、支給額をゼロとすることは、「妊娠を理由とした不利益取扱い」(男女雇用機会均等法9条3項)として、違法です。
当事者や目撃者から実際にそのような事実があるかの確認を行い、被害者の保護や加害者への適切な措置を進め手下さい。
録音や写真、メール文書などの客観的な証拠が重要になりますので、被害を受けたとする従業員に提出を求めて下さい。
同時に、会社は守秘義務を守る、慎重に調査する、口止め措置をとるなど、被害者のプライバシーを保護し、加害者が接触しないための措置をとってください。
本人を個別に呼び、被害者を明らかにすることなく、事実確認をしてください。事実が確認された場合には、具体的に本人から事情を聴取してください。その上でハラスメント行為が違法であること、被害者から損害賠償請求される可能性があること、場合によっては犯罪にもなることなども伝えて反省を促してください。
何がハラスメントに該当するのかについての教育指導を行い、本人からの報告書の提出も求めて下さい。
またハラスメントが精神的な理由によるものならば、治療やカウンセリングを勧めてください。
ハラスメントの程度が著しい場合や、改善しない場合には、部下のいないポストを与えたり、降格などを検討し、犯罪行為に類似する悪質な場合には解雇も検討して下さい。
さらに従業員全体にハラスメントに関する研修を行って意見交換し、社内に相談部署を整えてハラスメントを許さない職場環境を作って下さい。
就業規則に懲戒に関する規定があるときは、加害者の異動や降格処分を検討し、悪質な場合には解雇を検討してください。
また事業主は、従業員に対する教育指導を徹底し、気軽にセクハラ・パワハラ・マタハラ問題を相談できる部署を設置するなど、ハラスメント行為の再発防止のための措置をとるべきです。
事業主は、日頃から安全配慮義務違反にならないよう、適切な対応をとる義務があります。一定以上の規模の会社には従業員のストレスチェックが義務づけられていますが、メンタルヘルス対策も安全配慮義務となります。定期的なストレスチェックや、メンタルヘルスに関する研修を実施して情報提供を、相談を受け付ける機関やカウンセラーを設置して、早期に対応できるようにしてください。
以下の要件を満たす場合、業務上として労災認定されます。
① 認定基準の対象となる精神障害を発病していること
② 発病前概ね6か月間に、業務による強い心理的負荷が認められること
③ 業務以外の心理的負荷や個体側要因により精神障害を発病したと認められないこと
労働契約法5条は、使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命・身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとするとして安全配慮義務を定めており、これに反し、従業員に損害が発生した場合には、使用者は民法上の損害賠償義務を負います。
従業員が業務に起因し、疾病にかかったとして労災認定がされた場合には、労災保険から給付を受けることができます。 労災認定がされ、加えて使用者の安全配慮義務違反に基づく損害賠償義務が認められる場合には、使用者が負担すべき賠償額から、労災保険から既に同一の事由で給付がなされた分が控除される調整がなされます。
使用者の安全配慮義務に基づいて、従業員の健康状態を知る必要があり、メンタルヘルス不調の疑いのある従業員には、会社の指定する専門の医療機関での受診を命じることができます。
改善していない可能性や、復帰により更に悪化する可能性があることから、職場復帰が可能であると記載した医師の診断書の提出を求めて下さい。
なお診断書の信用性を確保するのであれば、会社の産業医か、指定する担当医師の診察を受けさせて、診断書を提出させてください。複数の診断書の意見が異なる場合には、第三の医師の診断を受けて、多数決により結論を決めることも検討してください。