労働基準法26条は、使用者の責による休業であれば、平均賃金の60%以上の休業手当を支払うよう求めています。
使用者に責がある場合については、故意・過失がある場合に限定されず、不可抗力以外の使用者の経営、管理上の事情を広く含むとされ(ノース・ウエスト航空事件 最高裁判所昭和62年7月17日判決)、事業内に原因があったり、事業主が最大の注意を尽くしていない場合には、休業手当を払う必要があります。
従って、換気が不十分であるとか、従業員同士が近接する職場であるとか、テレワークを検討せずに一方的に自宅待機を命じた場合には、休業手当が必要となる可能性があります。
雇用形態にかかわらず、アルバイトやパートタイム労働者、派遣労働者、有期雇用労働者などの労働基準法上の労働者(労働基準法9条)であれば、労働基準法26条により、休業手当の支払いが必要です。
パート、派遣、有期雇用についても、パート・有期法8条、9条により不合理な待遇の相違は禁止されています。
感染拡大の防止を理由として休業したり、シフトを減らす場合は、会社が労働者に労務を提供させることが可能であるのに、自らの判断で休みにすることと同様に「使用者の責に帰すべき事由」(労働基準法26条や民法536 条2 項)による休業命令と同じ扱いになります。
従って労働条件通知書や労働契約書の記載内容やそれまでの勤務実績に基づいて、平均賃金の60%以上の休業手当を支払請求ができる可能性があります。
行政からの休業要請などは、不可抗力によるものとして従業員への給与や休業手当を支払う必要がないように思われます。
しかし、営業時間帯を変更しての業務や、他の店舗での業務、テレワーク等が可能であるにもかかわらず、これを検討せずに直ちに休業、自宅待機を指示した場合には、使用者の責に帰すべき事由による休業として、給与や休業手当の支払義務が生じる可能性があります。
デパートや商業施設等の運営者が、施設全体を閉鎖する場合には、運営者への依存の程度、他の代替手段の可能性、休業期間、休業回避の具体的努力等を総合的に勘案して、休業が不可抗力によるものかを判断します。
原則として、特別措置法により施設閉鎖指示(45条3項)が出されたり、行政から休業要請が出された場合には、使用者の責に帰すべき事由による休業(労基法26条)とはいえないため、賃金及び休業手当を支払う必要はありません。
もっとも、他店舗への一時的な配置転換やテレワークができるのであれば、代替策として実施する必要があり、これをせずに休業、自宅待機を指示した場合には、使用者の責に帰すべき事由による休業として、給与や休業手当の支払義務が生じる可能性があります。いずれにせよ労使間で十分な話し合いを行い、特別の有給手当等を支払うことも検討して下さい。
特措法による休業要請・指示がある場合には、これに反した場合に、企業名の公表に加えて過料の制裁もあるため、債権者である事業主側の責めに帰すべき事由はなく、労使双方の責任によらずに労務の提供ができない場合として、賃金の全額を支払う義務は生じないと考えられます。
もっとも使用者は休業を回避するための努力を最大限尽くす必要があり、在宅勤務が可能な場合にこれを検討したか、他に就かせることのできる業務を検討したかという観点から、休業手当(労基法26条)の支払いが必要となる場合がありますので注意してください。
労働基準法26条では、平均賃金の100分の60「以上」としています。そこで、労働者の生活を維持し、安心して自宅待機できる体制を整えるため、就業規則等により、100分の60を超える手当を支払うことも検討して下さい。
労働基準法上の労働者であればパート労働者、派遣労働者、有期契約労働者など、休業手当の支払いや年次有給休暇付与が必要となります。
ただし派遣労働者は、派遣元企業に雇用され、派遣元企業の就業規則が適用されるため、派遣労働者の賃金や休業手当、特別休暇などはすべて派遣元企業との契約関係に委ねられます。