解雇権濫用法理

解雇権濫用法理

解雇と解雇権濫用法理(労働契約法16条)

会社は、従業員を自由に解雇できますか。

できません。民法672条1項は、期間の定めのない雇用契約について、「各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる」と規定し、労働者からの退職の自由と使用者の解雇の自由の両方を定めています。
しかし、使用者から解雇は、労働者の生活に重大な影響を与えるため、労働者保護の観点から、民法の原則が修正され、労働法上、解雇権は制約が課されています。具体的には、労働契約法16条が「解雇権濫用法理」を規定し、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」としています。したがって、解雇が有効とされるには、次の②要件が必要です。
① 解雇に客観的に合理的な理由があること(客観的合理性)
② 解雇が社会通念上相当であること(社会的相当性)
解雇権濫用法理は、日本食塩製造事件判決(昭和50年4月25日)、高知放送事件判決(昭和52年1月31日)などの最高裁判所が出した判例法理を法令化したものです。

解雇権濫用法理と解雇の要件

具体的にはどのような場合に解雇が無効となりますか。

解雇権濫用法理は、抽象的で、判断枠組として不明確です。具体的には、下記のような要素を判断し、手続を尽くしているかをケースごとに総合的に判断して判断する必要があります。
① 労働者の情状や処分歴、他の労働者の処分との均衡が図られているか
② 解雇処分とすることが酷すぎないか
③ 他に解決の方法がなく解雇がやむを得ないものといえるか
④ いきなり解雇するのではなく、使用者側から充分に注意指導を行ったか
⑤ 配置転換、異動、別の仕事を与える等、解雇を回避する努力をしたか

解雇制限を定めた法律規定

解雇権濫用法理の他に、法律で解雇が制限される場合がありますか。

労働契約法16条以外にも、次のような解雇禁止規定が実定法上規定されていますので、使用者側も十分注意して下さい。
① 解雇予告や解雇予告手当の手続きをしないで行われた解雇(20条)
② 労災休業期間及びその後30日間の解雇禁止(労基法19条)
③ 労働組合の組合員であること・組合への加入・結成・正当な組合活動による解雇の禁止(労組法7条1号、憲法28条)
④ 女性の婚姻・妊娠・出産等を理由とする解雇(雇用機会均等法9条2項・3項)
⑤ 産前産後の休業期間中やその後30日間における解雇(労働契約法19条)
⑥ 監督機関への申告権行使に対する報復的解雇(労働基準法104条2項)
⑦ 育児・介護休業の取得を理由とする解雇(育児介護休業法10条・16条)
⑧ 内部告発を理由とする解雇(公益通報者保護法3条)
⑨ 労働者が労働基準監督署に企業の不正等を申告したことを理由にした解雇(労働契約法104条)
⑩ 国籍、信条や社会的身分を理由にした解雇(労働契約法3条)
⑪ 業務上の怪我や病気による休業期間や、休業明け30日間の解雇(労働契約法19条)
以上のように、そもそも解雇が認められない場合には、解雇の合理性や相当性を検討するまでもなく解雇が違法無効となるので、注意が必要です。

お気軽にご相談ください。